「家族信託」で、基礎知識と手続きについてご紹介してきました。
家族信託(民事信託)を知ろう~基礎知識編~
家族信託(民事信託)を知ろう~手続き編~
今回は、具体的に活用事例でご紹介したいと思います。
イメージしにくい方は、参考にしてみてください。

1.家族信託(民事信託)の活用事例

いくつか事例と解決策をご紹介します。
いずれも、家族信託を選択することで依頼人(委託者)の思いを実現しながら、また残された家族のトラブル等を未然に防ぐことに繋がっていきます。

♦背景
母は72歳になるが、夫とは死別しており、不動産を含めた相続財産を持っている。
残された二人の子どもは成人し、その内の長女と現在同居中である。
母は、日常生活において、今のところ何でも自分で行い体力もまだあると感じている。
しかし、たまに物忘れをすることがあり、将来、認知症を患うのではと不安に思うことがある。

♢解決策
この場合、母の判断能力がしっかりしているうちに、長女などが受託者として家族信託の契約を結んでおけば、いざというときに母名義の預貯金についての引き出しも含め、不動産等の売却も可能になります。

◆背景
独身か、あるいは配偶者が既に死亡し子どもがいない。
常に自分が動けなくなった時の不安を抱えている。
そんな中で、親族の中に交流している姪がいる。

◇解決策
元気なうちに姪を受託者として委託し、万が一、自分に何かあった時に、身の周りの世話も含め財産管理を頼む契約を結んでおくと安心です。

2.家族信託(民事信託)と成年後見制度

「家族信託」と「成年後見制度」を比較してみましょう。
以下のような違いがあります。

家族信託 成年後見制度
選出の方法 委託者の意志のもと、任意で受託者を選べる 任意後見人は当事者が任意に選べ、法定後見人は当事者の判断能力が不十分となった時に家庭裁判所によって選出。
権 限 身上監護権はないが、信託契約があれば、認知症になっても継続して信託財産の管理・処分が可能 財産管理、法律行為の代理、身上監護、法定後見の場合は本人が行った法律行為の同意・取消しも可能
財産の処分や運用の可否 受益者の為に信託目的の範囲で処分・運用等が可能 原則として本人の為にのみの支出が可能。合理的な理由のない財産処分は不可。
不動産の処分(売却・建替え)の処分 登記簿上の甲区(所有者欄)に記載される受託者が、便宜上の所有者として処分できる。 法定後見の場合、居住用財産は家庭裁判所の許可が必要。
任意後見の場合、家裁の許可は不要だが、処分については合理的理由が求められる。
詐欺等、本人が受けた犯罪被害対応 受託者には取消権はないが、信託財産は委託者本人より分離して受託者の管理下にあるので、そもそも被害が起こりにくい。 被後見人が交わした契約に対し法定後見人は取消権を行使し被害を回復できるが、任意後見人は取消権がなく被害回復はできない。
本人死亡の場合 ◆遺言による信託契約が可能
◆預貯金口座の凍結回避が可能
◆委託者本人の死亡後も信託が終了しない等の契約内容にすれば、受託者の管理下で遺産相続手続きや、資産の長期的な管理が可能
被後見人本人の死亡により後見業務が終了
監督機能 任意で信託監督人等の設定は可能 家庭裁判所又は監督人により監督を受ける

[出所:個人信託・家族信託研究所]

3.注意点

「家族信託」制度を利用すると、これまで難しいとされていた、柔軟な財産管理を実現することが可能になります。

例えば、従来の後見制度では、「本人保護」という法律の趣旨の下、本人保有資産を有効活用する動きが取りにくい状況でしたが、家族信託の活用によって、本人の意思能力が認知症などで失われたとしても、「相続対策」を親に代わって子が行うことができる、という状況を作ることができるようになりました。

この制度を3回にわたってご紹介してきました。他の制度の良い部分を集めているように思いますが一方で、この制度もまた万全な手法ではないということにも注意をしなくてはなりません。

家族が受託者になる場合は、外から資産の管理・運用の実態が不透明という問題があります。信頼していたはずの受託者が、委託者の意に反する行為を起こすということもあり得ます。

そういったリスクを回避する為に、家族信託の内容を監視し監督するための信託監督人をつけることや、受託者を2人体制にしておくことも、大切な方法です。

他にも、外形的に信託としていても、内実が信託として認められない場合は、信託そのものが否定されるケースもありえます。契約書を締結したので終わり、というものではなく、そこからが実際のスタートであって、信託の枠組みが否定されないように、きちんとした運営が必要であることも注意が必要です。

4.まとめ

今回は、事例を使って説明しました。

どんな制度も必ず注意しなくてはいけない部分があります。

すべてを理解したうえでこの制度を進めるのは、なかなか困難です。

家族にとって最も良い解決方法は何かをしっかりと「家族信託」に精通している専門家と話をしながら、制度を上手に利用していくとよいでしょう。

また、相続ハウスでは、お客様に「お願いして本当に良かった」とご満足していただける専門家をご紹介しております。

ご興味がある方、これから制度を利用していきたいと考えている方は是非一度相続ハウスにご連絡ください。