相続のよくある質問

質問相続が発生したら所得税の確定申告も必要なの?

先日、父が亡くなりました。相続で財産を相続した場合、相続税の申告の他、所得税の確定申告もするのでしょうか?
また、父は生前、確定申告を行っていたのですが、相続が発生した年の分の確定申告はする必要がありますか。必要な場合、誰がいつまでにするのでしょうか?

答え原則として相続財産の確定申告は必要ありません

相続発生後は様々な手続きが発生しますので、相続手続きや相続税申告等に追われてなかなかそこまで考えが及ばないという方も多いのではないでしょうか。
ご質問を踏まえて、相続発生時の確定申告手続きについて詳しく解説致します。

1.相続人(財産を承継した人)の所得税の確定申告
1-1.原則として確定申告の必要はない

相続により取得した財産は、所得ではなく承継という扱いなので、所得税の確定申告を行う必要はありません。
取得した財産は相続税の課税対象となり、財産の総額が基礎控除額を超える場合のみ相続税申告を行うこととなります。
ただし、以下の場合は相続人も確定申告が必要となります。

1-2.換価分割により財産を相続した場合

換価分割とは、相続財産をすべて現金化してその現金を相続人で分け合うことを言います。
例えば、不動産と預貯金がある場合、不動産を売却して預貯金と合わせて相続人で分けます。
この不動産を売却する際、売却益が発生した場合には、所得税の確定申告をする必要があります。
【例】
AさんとBさんは、相続で父の不動産6,000万円(売却価額)を換価分割で、均等に分けることにした。土地は、先祖代々のもので、取得費は不明であった。Aさんは、父と同居していたが、Bさんは、別居していた。

この場合、それぞれの所得税(譲渡所得)は以下の通りとなります。

1-3.収益を生む財産を相続したら確定申告が必要

賃貸アパートや駐車場など収入を生む財産を相続した場合は、発生した収入に対して、所得税の確定申告が必要です。
この場合、相続が発生した年の1月1日から相続発生日までに発生した収入は被相続人の収入として、相続発生日以降に発生した収入はその財産を相続した相続人の収入として確定申告の手続きを行う必要があります。

ちなみに、被相続人の賃貸事業等を相続人が引き継ぐ場合にはいくつか必要な手続きがあり、特に被相続人が生前青色申告を行っていて、事業を承継した相続人も青色申告者になるためには、相続開始日から4か月以内に書類を提出する必要があります。

1-4.相続した不動産を売却したら確定申告が必要

不動産や上場株式等の有価証券などを相続し、売却した場合は所得税の確定申告が必要です。
ただし、相続により取得した不動産を売却する場合は、“相続財産を譲渡した場合の取得費の特例”により、売却の際に納付すべき税金を大幅に軽減できる可能性があります。
相続した財産に相続税が課税されている場合に、その相続税の一部を売却時にかかる税金から差し引けるという特例です。
土地等を売却した場合にかかる所得税は、

という計算式で計算しますが、特例では、取得費にさらに相続税の一部を加算できます。加算できる相続税は以下の算式により求めることができます。

例をあげると、以下のような計算になります。
【例】
Aさんは、相続で父から相続税評価額が4,000万円の土地と6,000万円の現金、合計1億円の財産を相続し、相続税を2,000万円収めた。その後、相続した土地を5,000万円で売却した。

この場合、取得費に加算できる相続税額の計算は以下の通りです。

譲渡した際にかかる譲渡税の計算は以下の通りです。

取得費とは相続税評価額ではなく、元々の所有者が取得した時の費用のことをいいます。
例えば、祖父が1,000万円でこの土地を購入していた場合は1,000万円が取得費となります。売却した人が相続で取得した時の評価額ではありませんのでご注意ください。
ところが、相続した土地の取得費が不明である(先祖代々の土地であった等)ことがあります。その場合は売却額の5%を取得費として計上することができます。

2.被相続人(亡くなった人)の所得税の確定申告「準確定申告」

準確定申告とは、亡くなった方の所得について行われる確定申告のことです。
被相続人が下記の条件に当てはまる場合等は、原則として準確定申告を行う必要があります。

・個人事業を行っていた
・不動産収入があった
・不動産などの資産を売却した
・給与所得で2,000万円以上の収入を得ていた
・生命保険や損害保険に加入しており、一時金や満期金を受け取っていた
・主に所得を得ている1つの会社の他に、20万円以上の所得を得ていた

準確定申告は、被相続人が亡くなった年の1月1日から亡くなった日までに得た所得について行います。
(相続発生日が1月1日~3月15日の場合は、前年の所得についても準確定申告を行います。)

下記に当てはまる場合は準確定申告の必要はありません。

・国民年金、厚生年金、共済年金による収入が400万円以下、かつ年金以外の所得が20万円以下だった
2-1.申告や納税は誰が行うか

準確定申告の手続きと納税は相続人全員が行います。相続人が複数いる場合は相続人全員が連名で確定申告書を提出するのが一般的です。

2-2.どこに申告するか

準確定申告の申告先は、被相続人が亡くなった時の納税地の税務署です。

2-3.準確定申告の期限

準確定申告は、相続発生日(相続の開始があったことを知った日)の翌日から4カ月以内に行います。

2-4.相続税との関係

相続税申告を行う際、準確定申告により所得税を納付していた場合は、その納付額を債務として相続財産から控除することができます。反対に、準確定申告により所得税が還付された場合はその還付額を相続財産に加算します。

3.まとめ

基本的に、相続財産を取得しただけであれば確定申告の必要はありません。ですが、取得した財産により収入を得たり、相続財産を売却したりすると、確定申告が必要となりますので注意が必要です。
また、被相続人の生前の収入状況によっては、準確定申告も必要となります。
相続が発生すると、相続税の申告にのみ意識がいってしまいがちですが、この準確定申告は、相続税よりも期限が早く、4カ月が申告期限となりますので注意しましょう。