相続のよくある質問

質問不動産を暦年課税の非課税を使って、生前贈与することは効果的か

私の母は、祖父から相続を受けた土地があります。祖父から母が相続したときにも、それなりの税金を払って、その土地を取得したそうです。ですがその時の税金の支払いにより、現預金は、ほとんど手元に残らなかったそうです。
最近の相続税増税により、私たち兄弟にもこの相続税が結構、かかってきそうです。母は専業主婦でしたので、土地以外の財産はありません。
相続税を払うためには、自分たちで工面しなくてはならなそうなので、節税をしたいと思っています。

贈与をする場合、110万円までは非課税だと思いますので、その枠を使って、兄弟3人に、毎年その土地の110万円部分を長期にわたって贈与してもらおうと思っています。
代々の土地なので、できれば、税金を払うために土地を売るということにはしたくありません。
この様な贈与を進めていく上での注意点はありますか。

答え不動産であっても、生前贈与はできますが…

悩ましい状況ですね。
不動産であっても、生前贈与はできます。有効な贈与とするためには、贈与契約書や、不動産の登記をしておくほうが良いでしょう。
ただ、この贈与が効果的な贈与かどうかは、下記の2つのポイントを十分把握して、検討することをお勧めいたします。
1つは、その後の争族の問題、もう1つは費用対効果の問題です。

(1) その後の争族の問題

今回のご相談は、区分所有ではなく、ひとつの不動産を複数の方で共有にすること(共有名義不動産)が前提ということでよろしかったでしょうか。共有名義不動産は、後々、トラブルになる可能性を残すことになります。
実際、現在は仲が良いご家族(夫婦、兄弟等)で共有にしていても、その後、他の共有者がご結婚されたり、お子様が生まれたりすると考え方が変わってしまい困っているというお話を良く伺います。
また、共有者に不幸があった場合、その相続人が新たな共有者になるため、そのままにしておくと共有者が増えていき、複数人で処分の意思決定をしていかなくてはならなくなってしまったが意見がまとまらなくて、困られているという方もとても多いです。
相続発生後は、処分を考えているなどの諸事情が無い限り、不動産を共有名義にすることは、慎重に考えてください。

(例)
今回の場合、生前贈与をしている間は、不動産の共有者は4名です。
生前贈与期間の共有者

その後、相続が発生すると、不動産の共有者は3名になりますが・・・
相続発生後の共有者

不動産の共有者に相続が発生した場合、原則として、そのご家族の人数分、不動産の共有者が増えることになります(遺産分割等により相続する者を1人にすることができます)。
たとえば、亡くなった共有者に妻と子供が2人いた場合には、不動産の共有者は5名になります。
相続人のどなたかに相続が発生した場合の共有者

(2) 費用対効果の問題について

不動産の所有権が移転する際に必要になる費用は、大きく3つあります。
① 登録免許税
② 不動産取得税
③ その他の費用
・登記費用(※司法書士に依頼をした場合)
・贈与契約書作成費用
・贈与契約書の印紙
・その他郵送費等

① 登録免許税

まず、不動産の所有権が移転して、第三者への対抗要件を満たすためには、登記手続き(名義書換)をする必要があります。
その際、登録免許税というものがかかってきます。
名義書換をする際に、法務局に支払うことで、登記することができます。
登録免許税は、所有権の移転が贈与原因で行う場合は、下記の利率になります。

   課税標準×1,000分の20

※尚、相続原因で行う場合は、「課税標準×1,000分の4」です。

② 不動産取得税

土地や家屋を購入したり、家屋を建築するなどして不動産を取得したときに、登記の有無にかかわらず課税となるのが不動産取得税です。
都税事務所・支庁から送付する納税通知書で、納税通知書に記載されている納期限までに納めます。

   取得した不動産の価格(課税標準額)*1 × 税率*2

*1  平成30年3月31日までに宅地等(宅地及び宅地評価された土地)を取得した場合は、取得した不動産の価格×1/2を課税標準額とします。
*2  税率は以下のとおりです。

取  得  日 土地/家屋(住宅) 家屋(非住宅)
平成20年 4月 1日から
平成30年 3月31日まで
3/100 4/100

詳しくは都税の「納税等について」をご覧ください。

※尚、相続により取得した場合は、課税されません。

③ その他の費用

登記手続きを司法書士に依頼する場合は、司法書士への報酬が必要となります。
また、不動産の生前贈与を行いますので、贈与したことを証明するために贈与契約書を作成しておいたほうが良いでしょう。
この贈与契約書は、印紙税の課税の対象となる文書ですので、印紙を貼らなければなりません。
このとき、印刷代や郵送でやり取りをする場合は通信費などの費用も発生します。

これらを、今回の相談に当てはめてみるとどうでしょう。
たとえば、1億円の土地であったと仮定します。法定相続人は3名ですので、何もしないと、相続税が630万円となります。これを、毎年1人110万円分、計330万円贈与すると10年後には相続税を190万円まで引き下げることができます。
ここで、上記の費用を下の前提を元に計算すると約245万円かかることになります。
節税額440万円(630万円-190万円)のうちこの費用を差し引くと、実質節税額は195万円です。
少しでも節税していきたいということであれば、効果はあるといえます。
また、これを16年間続けることができれば、この土地の評価額は基礎控除額内に納めることができます(※)。

(※)年間にかかる費用は合計24万4,500円として計算しています。
  ・登録免許税:22,000円(110万円の2%)×3名分
  ・不動産取得税:16,500円(110万円の1/2の3/100)×3名分
  ・登記費用:42,000円×3名分(※相続ハウスでの報酬としています)
  ・贈与契約書印紙代:1,000円×3名分
  ・この他に贈与契約書の作成を依頼する場合は、別途費用が発生します。
  ・土地の評価額が一定であることを前提としています。
  ・印紙代は、印紙税法別表第一第1号の1文書(不動産の譲渡に関する契約書)
  ・平成30年3月31日までの取引前提が続くものとして計算しています。

ですが、手続きの手間と、相続までの期間の確保(相続発生直前の3年間に行われた贈与は、相続税の計算上含めて計算されますので、注意が必要です)をよく検討してみてください。

上述してきました、2つのポイントを抑え、それでもご家族にとって良いと考えられる方法であれば不動産を暦年課税で贈与することは事実上、可能ではありますが、あまり現実的ではありません。よく家族で話し合いをして、検討をしていただければと思います。