相続のよくある質問

質問妻が相続で受取った不動産を売却したら手取り額はいくらになりますか

私の妻が、妻の両親から相続で不動産を受取りました。これを売った場合、手元にどれくらい残りますか。

【前提事項】
夫(52歳)は、会社員
妻(48歳)は、専業主婦でパートなどもしていない
不動産の価格:不動産会社査定額 1億円 ( 譲渡価額 )
不動産の取得価格:古いので不明
不動産を相続する際に、500万円の相続税を納税(相続税のうち対象の不動産に係る割合分のみ)
不動産の売却時には、古い建物を取り壊す必要あり
妻の両親が居住の物件で、特別控除(マイホーム特例)の適用が受けられる(旧耐震基準の家屋)

答え売却時の支払い以外にも支払いが生じますのでご注意ください

不動産を売却した場合の手取り額が、どれくらいか気になるところですよね。
一部概算値を使用しておりますが、1億円で売却した場合の実質手取額は、約8,148万円(売却額の約81%程度)と計算されました。下記、具体的な費用を見てみましょう。

(1)売却にかかる費用
① 解体費用

不動産を売却する際、本件のように建物の取り壊し(解体)が必要な場合、売却前に費用が支出することもあります。解体費用は、立地や環境、広さ、構造、地域などによって様々です。本件では、この費用を300万円と仮定して計算しています。

② 抵当権抹消登記費用

過去に不動産を担保にローンなどを組んでいて、完済した際に抵当権の抹消登記をしていないことがよく見受けられます。その場合、抵当権の抹消登記は、売却前にしなければなりません。本件では、この費用を2万円(登録免許税等含む)と仮定して計算しています。

③ 測量費

売却をしようとした際に、古くから所有している物件ですと境界線が明確にされていないことがあります。境界線が確定していない場合には、土地家屋調査士等に依頼をして、近隣との境界線を明確にする必要があります。本件は、境界線の確定はされているものと仮定し、計算には含めていません。

④ 仲介手数料

不動産を売却する際、仲介業者に依頼し売買した場合などは、仲介手数料がかかります。
仲介手数料は、譲渡価額の3%+6万円まで(400万円以下の場合、比率は異なります)とされています。本件では、この仲介手数料を306万円プラス消費税として計算しています(消費税率を8%として計算しています)。

⑤ 印紙代

不動産を売買をする際は、売買契約を交わす必要があります。契約を書面で交わす場合には印紙代が必要です。
印紙代は、その譲渡価額によって定められており、5千万円超1億円以下の場合は3万円とされています(軽減措置適用後(平成30年まで))ので、こちらで計算しています。

(2)税金

不動産を売却した際、譲渡益がある場合には、売却をした翌年に確定申告が必要になります。
まず譲渡益とは、譲渡価額から取得費を差し引いたものになります。取得費は、不動産の購入代金、建築代金、購入手数料のほか設備費や改良費も含まれ、これらから、減価償却費相当額を差し引いて計算します。この取得費が不明である場合、譲渡価額の5%相当額を取得費にすることができます。

本件は、「取得費不明」ということですので、5%相当額を取得費としています。なお、相続で引き継いだ不動産で、不動産相当の相続税を納付し、一定の要件を満たしている場合には、その額を取得費に含めることができるものとされています。本件でも、相続税額を取得費に含めて計算しています。
この結果、所得税等及び住民税を合わせて、約1,089万円(※)となります。
※{譲渡価格(1億円)-取得費合計(1,639万円)-特別控除(3,000万円)}×20.315%

(3)その他の影響

以上までが一般的に手取額として計算されるものだと思います。しかしながら、本来の手取額といえば、それ以外にも影響するものがあります。具体的に見てみます。

① 夫の所得税等への影響

今まで、夫の扶養家族だった妻は夫の所得税や住民税の計算で配偶者控除を受けていたと思います。不動産を売却した年度は、その額によってはこれらが受けられなくなりますので、その分が影響します。本件では、38万円の所得に対する所得税額等(税率を10.21%としています)及び33万円の所得に対する住民税額(税率を10%としています)の合計が年間約7万2千円、夫の手取額から減ることになります。

② 国民年金及び国民健康保険料(以下「国保」)の増額

妻の年収が130万円以上、かつ、その収入額が夫の収入の1/2を超えた場合は扶養から外れなくてはならない場合があります。その場合は、国民年金及び国保へ加入しなければなりません(加入している保険によっては、不動産所得は一時的な収入として扶養から外れなくてもよいところがありますので、夫の会社に確認してください)。
本件では、仮に夫の扶養から外されてしまったと仮定して計算しています。
国民年金は、月16,260円(平成28年)ですから年間約19万5千円、国保は、最高額の89万円(平成28年/世田谷区)が、翌年に増加することになります。

③ 会社の配偶者扶養手当

配偶者を扶養している場合、会社から一定の金額を支給している場合もあります(月額1万円前後)。
この場合も、配偶者の所得が一定以上の場合には、会社から手当が支給されなくなる可能性があります。こちらについても、②同様、一時的な収入については、加味しない会社もありますので、夫の会社に確認してください。
本件では、仮に月1万円の手当てをもらっていたが、収入が増えたことによって、手当てをもらえなかったとして、計算しています。

(4)まとめ

不動産を売却すると、年金・保険・税金・不動産登記等様々な分野に影響します。どの程度の支出であるかを確認するにも、これらを専門としている専門家はばらばらで、それぞれが全部を把握しているわけではありません。
本文で、どのような費用を気にしておく必要があるのかという目安は把握できたのではないでしょうか。

今回は、夫が会社員の場合で算定していますが、もし個人事業として働いている場合や年金生活をしている場合は、会社員として働いている場合よりも、健康保険料等の影響が本件よりも、比較的多くなる傾向にあります(特に75歳以上で後期高齢者医療制度の被保険者である場合、医療費がかかった場合の自己負担割合も変わる場合があります)。退職をしてから売却を検討するなど考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、時期や年齢等も加味して検討すると良いかもしれません。

不動産を売却した場合には、その後の支出に備えて、売却額をすべて使うのではなく、ある程度の金額を残しておく必要があることにご留意していただければと思います。
売却をご検討の物件がある場合は、そのご家族の状況や不動産の額・かかる費用の項目や金額も変わってきますから、一度、個別にご相談いただければと思います。

(参考)
相続で取得した空家に居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例を適用できる時期は、限りがあります(相続開始から3年以内の売却、かつ、平成31年12月31日までに売却)。